ミスター企業価値評価、中嶋さんに聞いてみよう。

2020.03.05 - written by takahashi

第5回のメンバー紹介


パネラー(Panelist)

阿部 海輔
Kaisuke Abe
公認会計士・税理士


株式会社明治通り会計社 代表取締役社長CEO
株式会社明治通りパートナーズ 代表取締役社長CEO
明治通り税理士法人 代表社員


(略歴)
大手監査法人IPO事業部を経て、2007年に監査法人ハイビスカス設立、2008年に企業価値評価事業と会計コンサル事業を行う明治通り会計社を設立、2009年に明治通り税理士法人を設立、2019年にM&AのFA事業を行う明治通りパートナーズを設立。上場会社の社外役員も務めている。

(紹介)
紋別生まれ札幌育ち。平日は明治通りグループ代表として渋谷界隈で、休日はサーファーもしくは陸サーファーとして湘南界隈で活動している。
何色にも染まっていなかった高校時代、白いTシャツ、白いジーンズ及び白いスニーカーで登校したことがある。
当日は一日、画用紙と呼ばれていたらしい。

中嶋 克久
Katsuhisa Nakashima
公認会計士


株式会社明治通り会計社 顧問
大手評価会社創業者



(略歴)
大手監査法人から、ベンチャー・キャピタル、預金保険機構の出向を経て、株式会社プルータス・コンサルティングを創業。数千件の評価業務に関わり同社を国内最大手の評価会社に発展させる。現在は弊社顧問の他、M &Aコンサルティング会社役員、上場会社の社外役員等を務めている。
主な著書に「資本政策の考え方と実行の手順」(共著、中経出版)、「ストック・オプション会計と評価の実務」(共著、税務研究会出版局)、「企業価値評価の実務Q&A」(共著、中央経済社)等。

(紹介)
大手評価会社の創業者にして弊社顧問。
岩手県宮古市出身。
業務のかたわら故郷の復興にも力を注ぐ。近年も津波で流されたジャズバーの復活を目的とした会社を設立した。
この会社が発行した株式が、店主のやることに口を出さない、リターンは“ある時払い”という種類株式。
資本政策の豊富な経験を活かし、店を再オープンさせている。

ファシリテーター(Facilitator)

本多 早紀子
Sakiko Honda


株式会社明治通り会計社 広報部 

(略歴)
明治通りグループ広報部員。

(紹介)
明治通りグループの広告宣伝担当。
新人歓迎会からバーベキュー、忘年会に至るまで全ての社内イベントの段取り及び司会を取り仕切る。
自他ともに認める司会力はすこぶる定評がある。なぜそんなに司会が好きなのか、司会ができるのかは誰も知らない。

はじめに

こんにちは!明治通り会計社の本多です。
今月の「明治通りジャーナル」、第5回は「ミスター企業価値評価、中嶋さんに聞いてみよう」として、弊社顧問であり大手評価会社である株式会社プルータス・コンサルティングを創業した中嶋さんに昨今の企業価値評価についていろいろお聞きしてみたいと思います。
パネラーは、弊社明治通りグループ代表の阿部と元プルータス・コンサルティング代表取締役、弊社顧問の中嶋です。





評価者が理解しなければならないもの


本多
本多

明治通りジャーナル第5回を始めたいと思います。本日も盛り上がっていきたいと思います。
本日は弊社顧問であり、プルータス・コンサルティング創業者でもある中嶋さんに弊社代表阿部と私がインタビューする形で評価業務についていろいろお聞きしてみたいと思います。
それではパネラーの中嶋さん、阿部さん、どうぞ!


阿部
阿部

こんにちは!中嶋さん、よろしくお願いいたします!
中嶋さんにお話が聞けると思ったらいてもたってもいられず昨日も朝6時から海入ってサーフィンしてきました!


本多
本多

海、関係ないですよね…。昨日のことだし。


よろしくお願いいたします。

中嶋
中嶋


本多
本多

まず今回の経緯ですが、中嶋さんに当社の顧問を引き受けていただいたことがきっかけですよね。改めて阿部さんが中嶋さんに顧問をお願いした経緯はなんでしょうか。


阿部
阿部

明治通り会計社はIPO等の会計コンサルティング、企業価値評価等のFAS業務を行う会社として設立しました。
企業価値評価については、上場会社のM&AやIPO準備会社によるファイナンスの際などに依頼いただく機会が増えていて、企業価値評価のニーズが年々高まっていることを感じています。
だからこそ今後はもっともっと評価業務の品質がより重要になっていくと思い、企業価値評価の第一人者である中嶋さんに顧問就任をお願いしたんです。



普段ですか?
自分、海入るんでだいたい大胸筋鍛えていますね。
ほらこうやって脇締めて。



本多
本多

なるほど。一方で中嶋さんはなぜ弊社の顧問を引き受けていただけたのでしょうか。


明治通り会計社には私の元部下が入社してまして、彼から紹介されました。
まあ彼のことは信頼しているし、彼は転職後も元気そうなんでなんとなくいいかなと思いまして。

中嶋
中嶋


本多
本多

なるほど。ありがとうございます。


阿部
阿部

本多さん、中嶋さんが関わられてきた案件数はなんと数千件なんです。
誰もが知っている有名企業の裁判案件とか、スクイーズアウト第一号の裁判事例だって中嶋さんの案件なんですよ。


数だけはやっています。量が質を作るんだということは実地で学べたとは思います。

中嶋
中嶋



ナカジマじゃなくてナカシマです。



本多
本多

阿部さん、量が質を作るんですって。
中嶋さんは数千件ですが、うちはどうなんですか。


阿部
阿部

……もっともっと仕事したい!


気合入っていますね。

中嶋
中嶋


阿部
阿部

はい!気合も入っていますし海にも入っています!


本多
本多

数千件の評価を行ってきた中嶋さんに改めて質問させていただくのですが、価値評価を行う評価者にとって大事なことは何だとお考えでしょうか。


評価者にとって大事なことを一つだけあげるとすれば、評価者は対象会社の事業計画、つまり事業そのものを理解しなくてはならないということだと思います。

中嶋
中嶋



事業への理解、私はこれを言い続けています。



本多
本多

事業への理解ですか。
通常、評価者は対象会社の事業を理解しているものではないのでしょうか。


うーん。どうでしょう。
過去、非現実的な事業計画に基づいて企業価値を高く評価した報告書を根拠に、資金を不正流出した某大手企業の不適切会計がありました。
これが企業価値評価ガイドラインの改正のきっかけにもなりました。
ガイドラインでは提供された事業計画を鵜呑みにせず事業を理解し分析しようということを強調しています。
しかし私はこの改正の趣旨がまだ広く知られていないという印象を持っています。
このため評価者が事業を理解せずに企業価値を評価してしまっているケースがあるのではないかと危惧しているんです。

中嶋
中嶋


企業価値評価に対する国際的な動向


阿部
阿部

中嶋さんは日本公認会計士協会のIVSC(International Valuation Standards Council:国際評価基準審議会)対応専門委員会の委員をやっていらっしゃいますよね。
中嶋さんが評価者に求める資質とIVSCでの活動は関係あるのでしょうか。


とても関係あります。
IVSCでは企業価値評価に関する資格制度の導入を検討しているんです。
我が国においても多くのM&AやIPOが行われ、のれん評価やPPAの検討を行うケースが増えていますが、いざ評価を依頼しようとしても外形的に評価者のレベルの違いがわからないんです。
これが由々しき問題なんです。
なぜなら知見や経験の乏しい評価者による評価報告書は間違った経営判断につながり株主利益を害する恐れがあるからです。
このため私は評価者の資格制度の導入は急務だと考えています。

中嶋
中嶋


本多
本多

株価算定等を行う企業価値の評価者に資格を設けるのですか?


そうです。
ただこれは簡単ではありません。評価者の資格制度を導入するには、まず評価実務の指針や基準が必要になります。
この点、IVSCは国際評価基準を公表していますし、我が国においても、前述の企業価値評価ガイドラインがあります。
ガイドラインでは、入手した情報」の有用性及び利用可能性の検討・分析が重要であることがうたわれています。

中嶋
中嶋



いやーこれは本当に簡単ではないんですよ。



阿部
阿部

このガイドラインのいう「情報」とは先ほどからおっしゃっている対象企業の事業計画のことですよね。
この点から評価者が会社の事業を理解しなければならないという話につながっていくわけですね。


その通りです。
私はガイドラインが理解されず、情報、つまり事業計画の有用性及び利用可能性の検討分析がしっかり行われていない評価が少なくないのではないかということを懸念しています。

中嶋
中嶋


本多
本多

阿部さん、株価算定やPPAを行う上で事業計画を理解して、検討分析しなければならないんですよ。
うちは大丈夫ですか?


阿部
阿部

はい、ありがとうございます。大丈夫だと思っています。


本多
本多

話、聞いていました?


阿部
阿部

本多さん、何をおっしゃいますか。もちろんお聞きしていましたよ。
うちは当然事業計画を理解し検討分析したうえで株価算定等を行っています。
うちは税理士法人を併設しており、いろんなお客さんを見ているから事業への理解が早いんです。
もっと言えばうちは監査法人も併設しているから、事業計画を分析していない評価報告書が監査法人からどれだけ突っ込まれるかという点を理解しているんです。
だから事業計画を理解もせず検討も分析もしないなんていうことはうちではありえないんです。



意識高いですね。

中嶋
中嶋


阿部
阿部

ありがとうございます!意識高いかもしれません。
波が高いと聞くと自然と海に足が向いてしまうタイプではあります!



分析しない評価なんてありえない。
パドリングしない人生なんてありえない。
ナカシマです。


ディスクレーマーを付せばいいわけじゃない

阿部
阿部

中嶋さん、事業計画の有用性及び利用可能性の検討分析が必要ということはわかりました。
ただ、一般的な評価報告書には「提供された事業計画等が真実かつ正確であることを前提として業務を行った」、つまり「提供された事業計画等を所与として業務を行なった」というメッセージを記載しますよね。
事業計画の有用性及び利用可能性の検討分析をするのに、事業計画は所与と記載するんですよね。
これってある種矛盾した話ですよね。


良いご指摘ですね。
まず当然ですが、事業計画の実現可能性は神のみぞ知るものです。
そのため評価報告書の利用者には、事業計画の実現可能性は神様しか判断できないんだという現実は知ってもらう必要があります。
このため「提供された事業計画等を所与として業務を行なった」、つまり「将来において事業が事業計画通りにならなくても評価者に責任を負わせないでね」というメッセージを記載する必要があるんです。
このメッセージはディスクレーマーと言われます。

中嶋
中嶋


阿部
阿部

でもこれが込み入った話なんですが、ディスクレーマーを記載しても、事業計画の有用性及び利用可能性の検討分析を行わなくても良いという話にはならないですよね。


もちろんです。
ディスクレーマーを記載すれば、非現実的な事業計画を鵜呑みにしていいなんて話にはなりません。
そんな評価報告書は不正会計につながるし言語道断です。
ディスクレーマーを付しても、専門家には事業計画を検討分析して、通常見抜くべき誤りを修正し評価することが期待されます
ここで言う検討分析は、神のみぞ知る将来予測を保証することではなく、専門家であれば誰でも気がつくような事業計画の矛盾を指摘することです。

中嶋
中嶋


本多
本多

ということはディスクレーマーを付したからといって評価者は免責にはならないということでしょうか?


その通りです。
ディスクレーマーがあれば事業計画を所与として計算過程だけ確認すれば評価者が完全に免責されるなんていうことはありません。
それは誤解です。

中嶋
中嶋


本多
本多

誤解なんですね?


はい。
10年以上前に中小企業庁の「非上場株式の評価の在り方に関する委員会専門委員会」に参加した際、この点が論点になりました。その際、弁護士の委員が法的にディスクレーマーを付しても重過失の評価者は免責されないと発言していました。
その後も多数の弁護士にお会いしましたが皆さん同じ見解でした。
事業計画は鵜呑みにせず少なくとも事業計画を過去実績と比較したり、マネジメントインタビューにより実現可能性を検証することは必要と考えます。
また、財務デューデリジェンスでの重要な検出事項を考慮することも重要です。

中嶋
中嶋





本多
本多

阿部さん、また大事なお話をいただきました。
事業計画の分析はもちろん財務デューデリジェンスの結果もしっかり価値評価にふまえなければならないんですね。


阿部
阿部

そうですね。
我々は企業価値評価だけでなく、ご要望に応じて財務デューデリジェンスも一気通貫で行うことがあります。
またどんな時でもデューデリで把握した問題点は企業価値評価にしっかり反映します。
うちは専門家たる会計士が常勤で10人以上いるんで財務や会計に関するたいがいのことには対応できると思います。



組織を率いていく堅い決意を感じますね。

中嶋
中嶋


阿部
阿部

ありがとうございます!決意堅いです!テトラポッドといい勝負だと思っています!



デューデリやったら結果を踏まえる。
大事なことは省かない。
当たり前だろ?
俺の名前から海を省いたらどうなる?
スケだぞスケ。
ナカシマであります。



本多
本多

中嶋さん、ありがとうございます。ガイドラインが大変重要であることはわかりました。
評価者に情報、つまり事業計画の有用性及び利用可能性の検討分析をしっかりと行わせるルールを設定して、そのうえで評価者の資格制度が必要と言うことですね


はい。
IVSCは近年Qality Mark(評価人の資格制度)に取り組んでいます。
これは評価職業専門組織たる各機関や団体により、会員に対して資格を付与するかたちでの運用が構想されています。

中嶋
中嶋


本多
本多

なるほど。日本にも評価専門組織というのはあるのでしょうか。


残念ながら我が国にはまだ企業価値評価に関する評価職業専門組織はありません。
このためまずはこの専門組織を組成することが課題です。
さらにこの組織を立ち上げる際には国際評価基準(IVS)に準拠した評価ができる者を会員にしなければならないため、我が国の評価者はIVSに精通することが求められます。

中嶋
中嶋


阿部
阿部

まだまだ簡単な話ではないわけですね。


そうなんです。
ただ一方で私が以前の評価会社を創業した当時に比べ企業価値評価へのニーズは比べ物にならないほど高まっています。
また外国人株主も増えており、国際的にも日本の評価実務の品質向上が求められていることは間違いありません。
一般的に評価実務は公認会計士たる専門家の業務だと言われますし、公認会計士が評価実務の制度化に対し積極的に関与すべきかと思います。

中嶋
中嶋






評価会社に期待されること



阿部
阿部

我々も専門家として、真摯に受け止めなければならない重要なご提言ですね。
ちなみに中嶋さんが我々のような評価会社に今後期待することは何でしょうか。


評価会社は、もっと経営者の考えを理解しなければなりません。
企業価値評価は経営者が考えることを数値化することなんです。
したがって評価会社は経営者の考え、思い、行動を理解できるような能力を備えなければならないと思います。

中嶋
中嶋


本多
本多

阿部さん、また重要なご意見をいただきました。経営者の考えを理解しなきゃですね。


阿部
阿部

本当ですね。
うちのメンバーもその点は大事な話だと理解しているはずです。
彼らは様々な経営者と接していく中で、日々ビジネスセンスを磨いています。
僕からも彼らには専門家であると同時にお客様にとっての外部CFOにならなければならないと常々言っています。
ここでいうCFOは単なる管理者を意味していません。
CEOの思いを理解する経営者という意味で言っています。



CFOも経営者ですもんね。

中嶋
中嶋


阿部
阿部

ありがとうございます!CFOも経営者ですよね!
Chotto Futotta Ojisanのことではありません!


CEOを理解したうえで意見を言うのがCFO。
いい意味でお互い波風を立てて、ビジネスという大海原で
会社をテイクオフさせようじゃありませんか。
ナカシマでございます。



本多
本多

中嶋さん、ありがとうございます。
最後に阿部さん、せっかく中嶋さんに顧問になっていただいたんですから、これから中嶋さんと一緒にやっていきたいことありますか。


阿部
阿部

めちゃくちゃたくさんありますがいくつかあげるとすると、中嶋さんがプルータスを当初設立した目的は、資本政策のアドバイザリー業務を行うためだったと聞いています。
我々もスタートアップを支援している中で、資本政策のアドバイザリー業務をもっと強化できればといいなあと思っています。
そういった面でもご支援頂きたく思っています。
他にも中嶋さんはお酒や食に絡むビジネスなんかもやられているとお聞きしています。
会計や評価だけにとどまらずそういうビジネスもご一緒に手掛けられたら面白いですね 。


いいですね。ぜひやりましょう。

中嶋
中嶋


阿部
阿部

ありがとうございます!
とりあえず今日いただいたお話ふまえまして僕は江の島から海に飛び込んできます!



いやいや江ノ島って。
いただいたお話ふまえて江ノ島から飛び込むって。
ナカシマでーす。


まとめ



本多
本多

お二人とも、ありがとうございます。
今回は弊社顧問の中嶋さんに企業価値評価についてお聞きしました。
価値評価者は対象会社の事業を理解しなければならないこと、ディスクレーマーを付したからと言って責任は回避できないこと、そして何より経営者の思いをしっかり理解しなければならないことを学ぶことができました。
中嶋さん、ありがとうございました。


阿部
阿部

中嶋さん、ありがとうございます。
IVSCのことなど、大変興味深い話が満載でした。


こちらこそありがとうございました。

中嶋
中嶋



本多
本多

いかがでしたか?明治通りジャーナル第5回 「ミスター企業価値評価、中嶋さんに聞いてみよう。」でした。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。


最後までお読みいただいてありがとうございました!

文:髙橋克幸(明治通り会計社)
編集:髙橋克幸、中垣聖也(明治通り会計社)
撮影: 中垣聖也 (明治通り会計社)

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